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花粉症の注射治療


花粉症の注射治療について
花粉症の治療というと、飲み薬や点鼻薬を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は「注射」による治療もあります。
ただし、花粉症の注射はどれも同じではありません。
即効性をうたうもの、体質改善を目指すもの、重症例に限って使うものなど、仕組みも安全性も適応も大きく違います。 そのため、「注射なら何でも強くてよく効く」という理解は正確ではありません。
当院では、花粉症に対する注射治療としてはゾレア(抗IgE抗体)を中心に考えます。
一方で、ステロイドの筋肉注射は安全性の観点から行っていません。
また、ヒスタグロビンやノイロトロピンは日本で承認された薬剤ではありますが、現在の花粉症診療で誰にでも勧める標準治療という位置づけではなく、適応や限界を理解したうえで個別に検討すべき治療と考えています。

1.抗IgE抗体注射(ゾレア)
ゾレアは、IgEというアレルギー反応の上流にある抗体を標的にする生物学的製剤です。
花粉症に対しては、PMDAの最適使用推進ガイドラインで、「既存治療で効果不十分な重症又は最重症の季節性アレルギー性鼻炎」が対象とされており、12歳以上で使用されます。投与量と間隔は、初回投与前の総IgE値と体重で決まり、2週間または4週間ごとの皮下注射です。
承認時の国内第III相試験では、前シーズンに既存治療で鼻症状のコントロールが不十分だった12歳以上のスギ花粉症患者が対象となり、フェキソフェナジン内服とフルチカゾン点鼻をベースに追加する形で有効性が検討されました。つまり、ゾレアは「最初から打つ注射」ではなく、標準治療をきちんと行ってもなおつらい重症例で検討する治療です。
注意点として、ゾレアは非常に有効な治療ですが、ショック・アナフィラキシーが頻度不明ながら重大な副作用として記載されています。投与後2時間以内に起こることが多い一方で、それ以降や長期投与中にも起こりうるため、医療機関で適切に管理して使うべき薬です。また、花粉症での適応は12歳未満にはありません。
2.ステロイド注射(筋肉注射)
いわゆる「花粉症の注射」として一般の方にもっとも知られているのは、長時間作用型ステロイドの筋肉注射かもしれません。確かに、強い抗炎症作用によって症状が一気に軽くなることがあります。
しかし、現在の花粉症診療の主流ではありません。 日本アレルギー学会の患者向け手引きでは、花粉症の治療として第2世代抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬、抗ロイコトリエン薬などが推奨され、重症例では生物学的製剤まで整理されていますが、筋肉注射のステロイドは標準治療として前面には置かれていません。 (『アレルギーの手引き 2026~医療従事者が身につけておくべき知識〜』)
さらに重要なのは、2026年1月に日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が、一部ステロイド製剤について「アレルギー性鼻炎に対する筋肉内注射」が2025年11月改訂の添付文書の効能・効果から削除されたと周知している点です。これは、少なくとも一部の製剤で、花粉症に対する筋注ステロイドがこれまで以上に標準治療から離れたことを意味します。
当院がステロイド筋注を行わない理由は、効果の強さよりも、全身性副作用のコントロールのしにくさを重く見るからです。いったん筋肉注射してしまうと、内服のように中止や微調整がしにくく、糖尿病、高血圧、感染症、骨代謝、眼科疾患などに影響する可能性があります。
「1回で楽になる」ことだけを切り取ると魅力的に見えますが、現在はより安全性の高い選択肢が増えているため、花粉症で一般的に勧める治療ではありませn。
3.ヒスタグロビン注射
結論からいうと、ヒスタグロビンは日本で承認されている医療用医薬品なので、「間違った治療」ではありません。
実際に添付文書・インタビューフォームでは、アレルギー性鼻炎が効能・効果に含まれています。 (医薬品インタビューフォーム)
ただし、2026年時点の花粉症の標準治療の中心かというと、そうではありません。
現在の日本アレルギー学会の患者向け手引きやアレルゲン免疫療法の手引きで主に推奨されているのは、第2世代抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬、抗ロイコトリエン薬、アレルゲン免疫療法、そして一部重症例に対する生物学的製剤です。ヒスタグロビンは承認薬ではあるものの、現代の花粉症治療アルゴリズムの“主役”としては扱われていません。
その理由のひとつは、作用機序の詳細が明らかではないことです。メーカーのインタビューフォームでも、作用機序の詳細は不明としつつ、基礎実験レベルで好酸球浸潤抑制、ヒスタミン遊離抑制、ヒスタミン防御力の付与などが示されています。つまり、一定の薬理学的根拠はありますが、現在の標準薬のように病態のどこをどれだけ狙うかが明確な薬とはやや性格が異なるということです。
もうひとつは、即効性のある対症療法ではない点です。
添付文書上も、「本剤は対症療法剤ではないので、発作等の抑制効果は期待できない。発作時に投与すると、かえって症状を増悪する場合がある」とされています。花粉症がひどくなってから1回打てばすぐ楽になる、というタイプではなく、数回〜複数週かけて治療する前提の薬です。
用法としては、アレルギー性鼻炎では週1〜2回の間隔で3回または6回を1クールとし、十分な効果がなければ追加クールを行い、効果維持には3〜4か月ごとの反復投与が記載されています。つまり、通院回数がそれなりに必要です。花粉症シーズンだけ一発で済ませたい人には向きません。
副作用面でも、「安全そう」に見えて完全にノーリスクではありません。
重大な副作用としてショック(頻度不明)が記載されており、その他にも蕁麻疹、発疹、喘息発作、一時的な鼻症状の悪化、眠気、頭痛、めまい、注射部位の疼痛・発赤・腫脹などが報告されています。
さらに、ヒスタグロビンは特定生物由来製品で、有効成分にヒト血液由来の免疫グロブリンを含みます。実際の製造管理は厳格に行われていますが、患者さんによっては「血液由来製剤であること自体」を重く見る場合もあります。使用時にはロット番号などを少なくとも20年間保存する取り扱いになっています。
臨床成績としては、古い国内試験で、鼻アレルギーまたは血管運動性鼻炎患者に対し、二重盲検比較試験で有用率67.3% vs プラセボ45.1%、別のオープン試験で有効率65.8%などが示されています。つまり、全く根拠のない治療ではありません。 ただし、これらは比較的古い試験で、現在の標準治療薬や生物学的製剤と同じレベルで評価されたデータではない点は理解しておく必要があります。
当院としては、ヒスタグロビンを「完全に否定すべき治療」とは考えません。
ただし、誰にでもまず勧める第一選択ではなく、標準治療やアレルゲン免疫療法、生物学的製剤との位置づけを理解したうえで、通院可能性や期待する効果をすり合わせて検討する補助的選択肢、という位置づけが妥当だと考えます。
4.ノイロトロピン注射
ノイロトロピン注射も、日本ではアレルギー性鼻炎に適応を持つ承認薬です。PMDAや薬効情報でも、アレルギー性鼻炎が効能・効果に含まれています。
一方で、これもやはり花粉症標準治療の中心ではありません。
現在のガイドラインや患者向け手引きで主軸とされるのは、抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド、抗ロイコトリエン薬、アレルゲン免疫療法、生物学的製剤であり、ノイロトロピン注射はそこに並ぶ“第一選択”としては扱われていません。
そのため、ノイロトロピンは一部の患者さんで追加治療として検討されることはあっても、最初から広く勧める治療ではない、という理解になります。
当院の考え方
2026年時点では、花粉症の基本は第二世代抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬、必要に応じた併用療法、そして体質改善を目指すアレルゲン免疫療法です。その上で、どうしてもコントロール困難な重症・最重症例にゾレアを検討します。
そのため当院では、
・ゾレア:重症・最重症例で適応を満たす方に検討
・ステロイド筋注:安全性の観点から実施しない
・ヒスタグロビン/ノイロトロピン:承認薬ではあるが、花粉症標準治療の中心ではないため一般的な選択肢としては勧めない
という方針で診療しています。
記事監修

Itsuki Kitayama
あわじ駅前クリニック 院長・医学博士
北山 一樹
医学博士(大阪大学)
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 認定専門医・指導医
日本アレルギー学会 認定専門医
日本喘息学会 認定専門医
日本音声言語医学会 音声言語認定医
大学病院・基幹病院にて小児から成人、一般的な耳鼻咽喉科疾患から悪性疾患まで幅広い診療を担当。外来・手術・研究の総合的な経験を有する。
音声の研究では、“粗ぞう性嗄声(ガラガラ声)”の音響学的なメカニズムとその発声機構を世界で初めて解明し、学術報告を行う。
また、難しくなりがちな医療情報をわかりやすく伝えることを目指し、医学専門デザイン事業STUDIO BIUMを運営。学会・医療機関のロゴ・配布資料・Webサイトなど、一貫した“わかりやすさ”を設計している。
学術実績など
