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一側性高度難聴に対する人工内耳


一側性高度難聴に対する人工内耳が保険適用になりました
難聴というと「両耳が聞こえにくい状態」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし実際には、片耳だけが聞こえづらい、あるいはほとんど聞こえない「一側性難聴」の方も少なくありません。生まれつきの場合もあれば、途中から片耳の聴力だけが低下する場合もあり、聞こえにくさや生活上の困りごとは人それぞれです。
一側性難聴では、反対側の耳が聞こえているため見過ごされやすい一方で、
- 雑音の中で会話が聞き取りにくい
- どちらの方向から音が来たのかわかりにくい
- 会議や学校、職場で疲れやすい
- 日常生活の質(QOL)が下がる
といった悩みにつながることがあります。
2026年3月から保険診療で人工内耳を検討できるようになりました
2026年3月より、一側性高度難聴に対するコクレア社人工内耳が保険収載されました。
これにより、一定の条件を満たす方では、保険診療で人工内耳治療を検討できるようになりました。
ただし、片耳が聞こえにくい方すべてが対象になるわけではありません。
人工内耳の適応は、聴力だけでなく、語音聴取能、生活上の不自由、補聴器での効果、画像検査、術後のリハビリ継続の可否などを含めて総合的に判断されます。
どのような方が対象になりますか
日本耳科学会の「一側性高度難聴に対する人工内耳適応基準(2024)」では、主に次のような条件が示されています。
基本条件
- 後天性の一側高度・重度感音難聴であること
- 難聴発症から 6か月以上 経過していること
- 他の治療で改善が見込みにくいこと
- 言語習得後の症例であること
- 原則 5歳以上 であること
聴力の目安
一側性高度難聴(SSD)
良い方の耳
- 平均聴力レベル(4分法)が 25 dB未満
聞こえにくい方の耳
- 次のいずれかを満たすこと
- 90 dB以上
- 70 dB以上 90 dB未満 で、最高語音明瞭度 30%以下
非対称性難聴(AHL)
専門的には、今回の適応基準には非対称性難聴(AHL)も含まれます。
これは、片方の耳が高度に悪く、もう片方の耳にも軽度から中等度の難聴があるタイプです。
AHLの目安は以下の通りです。
良い方の耳
- 平均聴力レベル(4分法)が 25 dB以上 90 dB未満
- 最良語音明瞭度 50%より良好
聞こえにくい方の耳
- 90 dB以上
- または 70 dB以上 90 dB未満 で 最高語音明瞭度 30%以下
人工内耳の前に確認すること
人工内耳を検討する前には、次のような評価が必要です。
- 雑音下での聞き取り
- 音の方向感
- 日常生活での困りごと
- 補聴器やCROS補聴器での改善の有無
また、少なくとも 3か月以上、補聴器またはCROS補聴器を試しても十分な改善が得られないことが、検討の目安になります。
注意点
一側性高度難聴に対する人工内耳は、新しい治療選択肢として期待されています。
一方で、効果には個人差があります。
特に以下のような場合は、より慎重な判断が必要です。
- 失聴期間が長い(おおむね10年以上)
- 日常生活での不自由が比較的少ない
- 術後の装用やリハビリ継続が難しい
- 小児で先天性難聴の可能性があり、蝸牛神経の評価が必要
手術を受けても、十分に使いこなせず、人工内耳を使わなくなるケースもあります。
そのため、術前の丁寧な説明、術後の継続的な調整、リハビリテーションがとても重要です。
ご相談をご希望の方へ
「片耳がほとんど聞こえない」「雑音の中で会話がつらい」「音の方向がわかりにくい」などでお困りの方は、耳鼻咽喉科専門医へご相談ください。
一側性難聴の困りごとは外から見えにくい一方で、日常生活やQOLに大きく影響することがあります。検査結果と生活上のお困りごとの両方を踏まえて、治療方針を一緒に考えていくことが大切です。
※本内容は、日本耳科学会「一側性高度難聴に対する人工内耳適応基準(2024)」、学会案内、および耳鼻咽喉科・頭頸部外科の一般向け解説ページをもとに作成しています。
※最終的な保険適用や治療適応は、診察・検査結果に基づき個別に判断されます。
記事監修

Itsuki Kitayama
あわじ駅前クリニック 院長・医学博士
北山 一樹
医学博士(大阪大学)
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 認定専門医・指導医
日本アレルギー学会 認定専門医
日本喘息学会 認定専門医
日本音声言語医学会 音声言語認定医
大学病院・基幹病院にて小児から成人、一般的な耳鼻咽喉科疾患から悪性疾患まで幅広い診療を担当。外来・手術・研究の総合的な経験を有する。
音声の研究では、“粗ぞう性嗄声(ガラガラ声)”の音響学的なメカニズムとその発声機構を世界で初めて解明し、学術報告を行う。
また、難しくなりがちな医療情報をわかりやすく伝えることを目指し、医学専門デザイン事業STUDIO BIUMを運営。学会・医療機関のロゴ・配布資料・Webサイトなど、一貫した“わかりやすさ”を設計している。
学術実績など
