あわじ駅前クリニック 耳鼻咽喉科・小児科

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2025/9/30

院長の執筆論文が国際誌(Nature Portfolio刊行 NPJ Digital Medicine)に掲載されました!

このたび、あわじ駅前クリニック 院長 北山一樹が執筆した論文が、Nature Portfolio 刊行の npj Digital Medicine に掲載されました(2024年 Impact Factor 15.1)。

  • 論文タイトル:A Multivariate Model Incorporating Subharmonic Measurements for Evaluating Vocal Roughness

  • DOI:10.1038/s41746-025-01702-2(オープンアクセス) Nature


この研究はどのような内容ですか?

声がれの診療では、声の質を「聴いて評価する」ことがとても重要です。なかでも、ガラガラした感じに相当する 粗ぞう性(roughness) は、声の異常を捉えるうえで大切な要素のひとつです。
一方で、こうした評価は熟練した評価者による聴覚印象に支えられている面が大きく、同じ声でも評価者や評価のタイミングによって多少のばらつきが生じることがあります。論文でも、GRBAS尺度やCAPE-V などの聴覚心理的評価は重要である一方、主観性や評価者間差が課題であることが示されています。

今回の研究では、院長が前研究で開発した基本周波数抽出アルゴリズム SFEEDS(特許出願) を基盤として、subharmonics(サブハーモニクス) と呼ばれる音響成分を自動的に分類・定量化し、それらを既存の音響パラメータと組み合わせた多変量モデルを構築しました。さらに、このモデルをもとに ARI(Acoustic Roughness Index) という新しい指標を提案し、粗ぞう性を客観的に評価する方法として検証しています。


「サブハーモニクス」とは何でしょうか?

ガラガラした声では、声帯の振動が不規則になることで、通常のきれいな倍音構造だけでは説明しきれない複雑な周波数成分が現れます。その代表のひとつが サブハーモニクス です。
論文では、このサブハーモニクスを 1/2、1/3、1/4 などのタイプに分けて検出し、それぞれの出現の仕方や強さを解析しています。これまで「ガラガラ声と関係が深そうだ」と考えられてきた現象を、より整理された形で統計モデルに組み込んだ点が、この研究の大きな特徴です。


何が新しいのでしょうか?

この研究のポイントは、単に「声の周波数を測る」というだけでなく、粗ぞう性に関わる音響学的特徴をより細かく拾い上げ、それを統合して評価するところにあります。
論文では、新たに作成したサブハーモニクス関連パラメータによって粗ぞう性に関連する特徴を捉え、最終的に ARI が聴覚印象による roughness 評価と強く相関し、高い診断精度を示した と報告されています。また著者らは、ARI を「人の判断を置き換えるもの」ではなく、臨床家の評価を補完する客観的指標として位置づけています。


患者さんにとって、どんな意味がありますか?

声の診療では、患者さん自身の困りごと、医師の診察所見、喉頭所見、そして実際の声の聴取がとても大切です。
そのうえで、声の状態をより客観的に把握できる指標があると、初診時の状態把握だけでなく、経過観察や治療前後の変化の確認にも役立つ可能性があります。たとえば、

  • いまの声がどの程度「ガラガラ」しているのか

  • 治療や音声治療でどのくらい改善したのか

  • 主観だけでなく、客観的な変化として説明できるか

といった点を、より丁寧に評価できる可能性があります。
論文でも、こうしたモデルは純粋に主観的な評価への依存を減らし、臨床判断を支援する目的で位置づけられています。


今後の展望について

今回の研究は、ガラガラ声の評価を客観化するうえで重要な一歩ですが、論文では限界についても丁寧に述べられています。たとえば、強い気息性嗄声がある場合にはサブハーモニクスの解釈が難しくなることがあり、今後さらに改良が必要とされています。
一方で、著者らは本研究によって、subharmonics と粗ぞう性の関係を統計学的に裏づける基盤が得られたとまとめており、将来的には音声障害の定量評価、治療効果判定、遠隔医療やAI応用などにつながる可能性が期待されます。


院長より

本研究は、corresponding author の先生をはじめ、多くの共同研究者・関係者のご支援のもとで実現したものです。心より御礼申し上げます。
当院では、声・のど・ことばの診療において、こうした研究的知見もふまえながら、患者さん一人ひとりの症状に応じた評価と診療を大切にしています。

長引く声がれ、声の出しづらさ、発声時の違和感、のどのつかえ感などがある方は、どうぞご相談ください。
「ただのかぜかな」と思っていた症状の中に、丁寧に調べたほうがよい声のトラブルが隠れていることもあります。声を使うお仕事の方、長く続く嗄声が気になる方にも、適切な診察と評価をご提案いたします。